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広島高等裁判所岡山支部 平成5年(ネ)37号 判決

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の各請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

主文同旨

二  控訴の趣旨に対する答弁

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  事案の概要

次のとおり付加するほか、原判決の「第二 事案の概要」(原判決一枚目裏八行目から同四枚目裏四行目までの部分。原判決添付別紙計算書(一)、(二)を含む。)と同一であるから、これを引用する。

1  原判決三枚目表五行目の「甲」の次に「二、」を、同六行目の「三、」の次に「一二、」を加える。

2  同三枚目裏一一行目の「(」の次に「甲二二、二三、」を加える。

3  同四枚目表七行目の「六月」の次に「二五日」を加え、同八行目に「昭和五四年(ケ)第五七号」とあるのを「岡山地方裁判所倉敷支部昭和五四年(ケ)第五七号事件」と改め、同九行目の「受け、」の次に「同年七月二日訴外会社に右決定正本が送達され、被控訴人は、」を加え、同一一行目に「昭和六〇年(ケ)第一八号」とあるのを「岡山地方裁判所昭和六〇年(ケ)第一八号事件。以下「本件競売事件」という。」と改め、同一二行目の「受け、」の次に「昭和六三年一一月三〇日訴外会社に右決定正本の送達があったものとみなされ、」を加える。

3  同四枚目裏四行目の「ならない」の次に「、仮にそうでないとしても、昭和六〇年一月二五日の競売開始決定正本は郵便に付する送達の手続によるもので債務者である訴外会社には現実に到達しておらず、時効中断の効力は生じていない、また右送達手続の際には民事執行法二〇条、民事訴訟法一七二条の郵便に付する送達の要件が具備されていなかった、訴外会社代表取締役池田庄市は当時健康を害しており(平成元年三月一日死亡)、同人が郵便物を受領しなかったことをもって訴外会社が不利益を課せられひいては連帯保証人である控訴人も時効中断の効力を甘受しなければならないとするのは著しく不当である、右競売開始決定の際被控訴人の訴外会社に対する債権額は根抵当権の極度額をはるかに超過していたのであり、時効制度を安易に適用させるために各債権額に按分して弁済充当させる意図であれば脱法行為であり違法である」を加える。

第三  当裁判所の判断

当裁判所は、被控訴人の各請求は棄却すべきものと考える。その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決の「第三 争点に対する判断」の一及び二(原判決四枚目裏五行目から六枚目裏一二行目までの部分)のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決五枚目表五行目の「被告は」の次に「昭和五〇年五月二〇日以降」を加える。

2  同五枚目裏三行目の「施錠した」の次に「訴外会社の控訴人の」を、同四行目の「こともなく、」の次に「実印の所在場所は訴外会社の誰にも教えていなかったこと、」を加える。

3  同六枚目表三行目の「二三」の次に「、二六、二七、乙六、七、八の1ないし28」を、同五行目の「六月」の次に「二五日」を、同八行目の「がなされ、」の次に「同年七月二日訴外会社に右決定正本が送達されたこと、」を、同一〇行目の「一月」の次に「二四日」を加え、同一〇行目に「同裁判所」とあるのを「岡山地方裁判所」と改め、同一二行目の「昭和六〇年(ケ)第一八号」とあるのを「本件競売事件」と改め、同一三行目の「がなされ、」の次に「同月三一日以降訴外会社の本店所在地や訴外会社の当時の代表取締役池田庄市の住所地宛に訴外会社に対する右決定正本の送達手続がなされたが、いずれも転居先不明を理由として送達されなかったこと、右決定正本には債権者として被控訴人、債務者として訴外会社、所有者として内田憲一の記載があるほか、被担保債権として第二の一記載の各求償債権の記載があり、請求債権として右各求償債権等の内金三六〇〇万円の記載があること、その後判明した池田庄市の住所地宛に三度にわたり同決定正本の送達手続がなされたが、いずれも留置期間満了を理由として同裁判所に還付されたこと、同裁判所は昭和六三年一一月二五日及び同月三〇日に郵便に付する送達の手続により池田庄市の右住所地宛に同決定正本を書留郵便に付して発送したが、右各書留郵便は留置期間満了によりいずれも同裁判所に返送されたこと、同裁判所は同月三〇日に訴外会社に対して、被控訴人を債権者、訴外会社を債務者、内山憲一を所有者とする本件競売事件の不動産競売開始決定正本を特別送達郵便により訴外会社宛に発送したが裁判所に返送されて送達できなかったことや同日郵便に付する送達の手続により右決定正本を発送したので訴外会社が現実に郵便物を入手しなくても発送のときに送達されたものとみなされることを記載した通知書を普通郵便により発送したこと、右通知書には被担保債権及び請求債権の記載はないこと、本件競売事件の記録上右通知書が同裁判所に返送された形跡はないこと、」を加える。

4  同六枚目裏六行目の「解すべき」の次に「である」を、同七行目の「)」の次に「。」を加え、同七行目の「であり、」から同一二行目の「である。」までの部分を削り、同所に次のとおり加える。

「しかしながら、競売開始決定正本が郵便に付する送達の手続によって債務者に送達されたとみなされるにとどまり、同決定正本が現実に債務者に受領されることなく返送された場合には、民事執行法上は債務者に対する送達があったものとして以後の競売手続を進行させることができるものの、右送達の効力はあくまで同法上のものにとどまるのであって、郵便に付する送達手続に関する同条二〇条、民事訴訟法一七三条の規定は、実体法上の告知の到達の有無及びその時期についてまで規定したものではなく、右のとおり民事執行法上送達があったとみなされることをもって、実体法規である民法一五五条にいう通知が到達したものとすることはできない。

なお、送達以外の方法による告知も同条にいう通知に当たるものと解されることから、右郵便に付する送達の手続の際に債務者である訴外会社宛に普通郵便により発せられた昭和六三年一一月三〇日付けの通知書の配達をもって訴外会社に前記決定がなされたことが告知されたものと認めることができるか否かが一応問題となるが、前記認定のとおり本件競売事件の記録上は右通知書が岡山地方裁判所に返送された形跡はないものの、実際に右通知書が訴外会社に配達されたかどうかは右事実のみをもってしては必ずしも明らかではなく、記録上返送された形跡がないことをもって配達されたものと断定することはできないし、なによりも右通知書には被担保債権及び請求債権の記載がなく、その特定を欠いているから、同通知書の普通郵便による配達をもって訴外会社に対する告知があったということもできない。

以上によれば、本件競売事件において競売開始決定が債務者である訴外会社に告知されたものとは認められず、訴外会社に対し民法一五五条所定の通知がされたことを前提とする時効中断の主張は理由がない。

そうすると、第一貸付に係る求償債権については期限の利益喪失の日の後の日で最終入金日の翌日である昭和五九年八月一八日以降、第二貸付に係る求償債権については期限の利益喪失の日の後の日で最終入金日の翌日である同年七月三一日以降、他に時効中断事由の主張立証のない本件においては、右各求償債権は遅くとも右各日より五年の経過をもって消滅したものというほかない。

第四  結論

以上によれば、原判決は相当ではなく、本件控訴は理由がある。

そこで、原判決を取り消し、被控訴人の各請求を棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

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